大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和52年(行ウ)11号 判決

原告 吉川恭男

被告 博多税務署長 ほか一名

代理人 川勝隆之 諸岡満郎 ほか五名

主文

一、原告の被告博多税務署長に対する訴えはいずれもこれを却下する。

二、原告の被告国税不服審判所長に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一昭和四五、四六年分の税決定処分等及び裁決の取消請求について、

一  被告税務署長が、昭和五一年三月一二日付で本件税決定処分等をなし、原告が同年五月一七日同被告に右処分に対する異議申立てをしたところ、同被告は、同年六月九日これを却下したこと、原告がさらに同年七月三一日被告審判所長に右処分につき審査請求をしたところ、同被告は、同年一二月二七日付でこれを却下する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。

二  (税決定処分等の取消請求について)

1  <証拠略>を総合すると、右裁決の裁決書謄本は昭和五二年一月一三日に原告に送達されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、本件のように審査請求を経た処分の取消訴訟は、原告が裁決があつたことを知つた日から起算して三か月以内に提起すべきである(行政事件訴訟法一四条一項、四項、最高裁判所昭和五二年二月一七日判決、民集三一巻一号五〇頁)。しかるに本件訴えが昭和五二年四月一三日に提起されたものであることは記録上明らかであり、そうすると、本件税決定処分等の取消しを求める訴えは、出訴期間を経過後に提起された不適法なものというほかはない。

したがつて、被告税務署長に対する右訴えは、その余の点につき検討するまでもなく却下を免れない。

三  (裁決の取消請求について)

本件税決定処分等に対する原告の異議申立てが、国税通則法七七条一項所定の不服申立期間を徒過してなされたものであることは、原告の主張自体から明らかであるところ、原告本人尋問の結果によると、原告が、当時その主張のような団体交渉によつて、心身ともにかなり疲労していたことは認められるけれども、右事情をもつてしては未だ右不服申立期間を徒過するにつき同条三項に定めるやむを得ない理由があつたものとは認めがたく、結局右異議申立ては不適法であるといわざを得ない。

しかるときは、右異議申立てが不適法であることを理由として原告の審査請求を却下した被告審判所長の本件裁決には、原告主張のごとき違法の点はないから、右裁決の取消しを求める請求は失当としてこれを棄却すべきである。

第二昭和四八年分の更正処分等の取消請求について

一  被告税務署長が、昭和五二年一月二四日付で本件更正処分等をなし、原告が同年四月一三日同被告に右処分に対する異議申立てをしたところ同被告は同年五月二八日これを却下したこと、原告がさらに同年七月八日被告審判所長に右処分につき審査請求をしたことは当事者間に争いがない。

二  そこでまず、右更正処分等の取消しを求める訴えの要件である適法な不服申立ての存否について検討する。

<証拠略>を総合すると、本件更正処分等の通知書は、昭和五二年一月二四日博多税務署から書留郵便に付して発送され、同月二八日博多郵便局の窓口において右通知書を受領するために不在配達通知書を携えて来局した訴外古城孝志に交付された事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は古城からの伝聞であることを考えあわせるとにわかに措信しがたい。

ところで、右処分に対する異議申立ては、処分に係る通知を受けた日から所定の期間内になすことを要するところ(国税通則法七七条一項)、右通知が本件のように郵便による送達の方法でなされる場合には、郵便物が名宛人の住所に配達されることによつて右の「通知を受けた」ものとされ、名宛人が一身上の都合により、たまたま現実に送達書類を了知しなかつたとしても、通知受領の効果を否定することはできないものであつて、また、当該書類の送達は受送達者が現実に、直接、その書類を受領して了知することを要するものでなく、その内容を了知することができる状態におけば足りるものと解すべきであるから、受送達者本人でなく、本人の同居者、使用人その他本人と一定の関係があつて、その者が送達書類を受領すれば、遅滞なく受送達者本人に到達させることを期待できる者が受領することによつて送達が完成するものというべきである。

これを本件についてみるに、<証拠略>によると、原告は当時実質上の生活の本拠は広島市であつたが、自己が経営する九州経済新聞社の営業上の便宜のため、福岡市のマンシヨンを住所として住民登録していたこと、しかし、単身であり、特に昼間は殆ど右マンシヨンに居なかつたため、書留郵便物などは右マンシヨンの近くにあつた右九州経済新聞社の営業所に転送され、右営業所で原告或いは右新聞社の従業員が受領するのが通例であつたこと、前記古城孝志は、右新聞社の従業員であつて、通常右新聞社あての書留郵便物のみならず、原告あての郵便物についても、これを博多郵便局まで受け取りに来ていたので、同局員間に面識もあつたことが認められるのであつて、右事実によつて考えると、右古城は、原告本人と一定の関係があつてその者が送達書類を受領すれば、遅滞なく受送達者本人に到達させることが期待できる者というべきである。そうだとすれば、本件更正処分等は昭和五二年一月二八日に右古城が通知書を受領した時点において、原告が通知を受けたものと認めるのが相当である。

しかるに、原告が、右処分に対して異議申立てをなしたのは法定の不服申立期間経過後である同年四月一三日であり、右期間を徒過するにつきやむを得ない事由があつた旨の主張、立証もないから、結局原告の右異議申立ては不適法なものといわざるを得ない。

そうすると、原告の本件更正処分等の取消を求める訴えは、すでにこの点において国税通則法一一五条一項所定の適法な不服申立前置の要件を欠くことになるから、その余の点につき検討するまでもなく不適法として却下すべきである。

第三結び

以上のとおりで、原告の被告税務署長に対する訴えはいずれも不適法としてこれを却下し、被告審判所長に対する請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田和夫 寺尾洋 長谷川憲一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例